或る二世経営者のホームページ ~香山廣紀 かく挑み、かく歩む。~

香山草紙 エッセイ集


  60. お遍路日記ⅩⅦ

第四十八番札所『清滝山西林寺(せいりゅうざんさいりんじ)』までは4キロそこそこである。西林寺は田園風景の中にあり、その西南に杖の淵公園がある。公 園内には、名水百選にも選ばれている湧水がこんこんと湧き出ている。その由来は、当時農民達が日照り続きで困っていると丁度弘法大師が通り掛り、手にして いた錫杖でついたところ、あちらこちらから清水が湧き出て、以来水は枯れたことがないそうである。また西林寺の御本尊である『十一面観音』は秘仏で、後ろ 向きに立っているとのことで、裏へまわって手を合わせる。
本堂と大師堂で読経を終えた私は、ふと境内に目をやると、そこには猫が数匹日向ぼっこをするようにうずくまっていた。その内の一匹と目が合い近付いて行く と、我が家の愛猫「カーコ」だった。そこに居るはずはないのだが、間違いなく「カーコ」だった。私は手を差し伸べると、例のうざったいという仕草を見せな がら、のそりのそりと床下へ潜り込んでいった。(平成15年4月に亡くなっている)私は軽いホームシックを覚え、何故かしらえも言われぬ脱力感に襲われて いくのを全身で感じていた。
第四十九番『西林山浄土寺(さいりんざんじょうどじ)』までは10分足らずで着いた。たくさんの草履が奉納されているどっしりとした仁王門を潜り抜ける と、正面に本堂が見える。本堂は重要文化財に指定されており、その背後の竹林との対比は印象的である。開祖は恵明上人だが、御本尊である釈迦如来に深く関 わる空也上人の伝説が多く残っている札所でもある。空也上人は踊念仏の始祖であり、南無阿弥陀仏を唱え、念仏を広めたことにより、阿弥陀聖とも市聖とも呼 ばれている。空也上人がこの地を去る時、民の願いで自像を刻んだ。この像は現存していて重要文化財になっている。上人像の口から針金が出ており、その上に 小さな仏像が六体立っていて、口から出る六文字の念仏が仏の姿になっているという意味らしく、飄々とした老人像である。
第五十番『東山繁多寺(ひがしやまはんたじ)』の開祖は行基で、本尊は薬師如来であるが、四十九番札所同様に、全国に念仏を広めた一遍上人縁の地としても 有名である。一遍上人は空也上人を師と仰ぎ、また捨聖とも呼ばれ、この世の余分な物を捨て去ることにより、人間は救われると唱えた。この現代において何か しら清々しさを感じる教えである。
雨はだんだん激しさを増してきた。車も渋滞し、イライラが募る。今夜の宿泊地は少し贅沢に温泉地を予約している。渋滞の合間にルームミラーで顔を見てみる と、無精ヒゲも生え、中には白い物も混じり、他人の顔のように思える。