或る二世経営者のホームページ ~香山廣紀 かく挑み、かく歩む。~

香山草紙 エッセイ集


  46. お写経

私は驚くほど字が下手である。どれくらい下手かというと、自分で書いた字が読めないくらい下手なのである。手帳に書き記したスケジュールがどうしても解読できず、とにかくその時間は空けておいて訪ねて来た人を見て『あぁそうだったのか』と気付いた事など枚挙に遑がない。
その私がこともあろうに、1年半程前からお写経を始めたのである。それまでにも奈良の薬師寺と京都の鞍馬山で1~2度したことはあったが、見るに絶えられ ない字で相当の時間を要したことを記憶している。お写経に対する思いが芽生え強くなっていったのは、多分に二千年に行ったお遍路が影響している。お遍路に ついては、日記を綴っているので詳しくは記さないが、泣きながら、悩みながら、悶えながら、無事一人で終え、高野山にお礼とご報告に行った後、心のどこか に空洞ができていたのは確かであった。
それから2年ほど経過したある夏の初め、久しぶりに京都を訪れた時、何気なく鳩居堂に立ち寄ったのである。そこでお写経グッズ一式を買い求めた。それでも 始めるまでに2週間くらいかかり、なかなか踏み切ることができずぐずぐずしていたが、ある事件により自分自身のもっとも嫌な部分を見てしまい、自分を救う にはお写経しかないと悟り、勇気をもって決心をしたのである。
一応当面の目標を千枚と決め、年間二百枚は書けるだろうから五年間と期間を定めた。最初のうちは苦痛以外の何者でもなかった。今でもはっきり覚えている が、58枚目(最後尾に番号を打っている)に、"受想行識"の"受"という字が自分でもびっくりするくらいきれいに書けたのである。続いて"色"そして" 顛倒"と、僅かづつではあるが、字が上手くなったのである。毎月の月次報告会の時、私が黒板に字を書いたのであるが、それを女子社員の一人から「字、上手 くなられましたね」と誉められたのである。
朝7時30分、私の出社時間である。以前は1時間15分くらい要していた時間が、今では45分程で書けるようになった。集中度も70%くらいまで高まって きた。出張や直行が続いて三日ほどお写経ができない日が続くと、心が渇いてくる。
私の一日はお写経から始まる。