或る二世経営者のホームページ ~香山廣紀 かく挑み、かく歩む。~

香山草紙 エッセイ集


  28. お遍路日記II

午前7時が来るのを待ち切れず出発した私は、中国道から播担道を迂回し、山陽道の三木ジャンクションから明石大橋を渡り、淡路鳴門自動車道へと車を走らせ ていた。昨夜の睡眠不足もむしろ心地よく感じ、春の風を体全体で受けとめていた。この鳴門大橋を渡るといよいよ"お四国"と云う手前のサービスエリアに車 を止め、コーヒーを注文した。それが煎れたてであったのか予想を裏切るおいしさだった。
事前の浅薄な知識によると、徳島県は『発心の道場』、高知県は『修行の道場』、愛媛県は『菩提の道場』、香川県は『涅槃の道場』と呼ばれ、それぞれのお寺 に御本尊が安置されており、御本尊の真言がある。八十八ヶ所の札所の中で、一番多い本尊は薬師如来で、二十三寺あり、その他には大日如来や阿弥陀如来、虚 空菩薩や千手観音などがお守りされている。その境内には必ず大師堂があり、弘法大師空海がこれまた安置されている。
私は一番札所霊山寺でお遍路グッズ一式(輪袈裟、白衣、金剛杖、納め札、納経帳、線香、ローソク、ずた袋)を買い求め、慣れない手つきで納め札に自分の住 所と名前を書き、持参してきた数珠を手にかけ、御本尊の前に立って般若心経を唱えた。それは多分2月頃の稚拙な鶯の鳴き声のように、たどたどしい読経だっ た。続いて、どういう訳か諳んじていた光明真言を唱えた。大師堂の前に立ち、同じように灯明を上げ線香を供え、般若心経と光明真言を詠んだ。納経所を探し てお願いに行くと、グッズの一つとして納経帳を買った時にすでに墨書も朱印もしてあると言われた。
とにかく、夢だった八十八ヶ所、千四百キロのお遍路旅の第一歩を踏み出した。白衣の背中には南無大師遍照金剛と書かれており、白衣の意は、このお遍路の間 にいつ生命がとぎれてもいいように白装束に身を包むと云うことで、どうぎょうににん同行二人とは『あなた一人ではありませんよ、いつもお大師様と一緒です よ』と云う意味で、いつかお大師様に巡り会えると云う思いが込められているのだそうだ。
宗教心の全くない私をここまで駆り立てたものは一体何なのか?自分とは?生きるとは?様々な煩悩の中、霊山寺を後にした。金剛杖に付けられた鈴の音が快く 阿波路に響き渡る中、二番札所極楽寺の山門をくぐった。少々汗ばんだ頬を4月の風が撫でていった。