或る二世経営者のホームページ ~香山廣紀 かく挑み、かく歩む。~

香山草紙 エッセイ集


  13. 涙

最近、涙腺が弱くなったのか、甘くなったのか知らないけど、すぐ涙がこぼれそうになったり、実際こぼしたりする。決して年齢のせいではないと思うが、半世 紀近くも生きているといろんな出来事に遭遇し、その時々の喜怒哀楽が精神か肉体のどこかの引き出しにしまわれているものだから、つい取り出してしまうのか もしれない。
例えば、テレビを見ていて何気ない情景や会話に、本を読んでいて知らず知らずに引き込まれてしまって。また、愛猫が少し開けていた窓から居なくなって、夫 婦で夜の町を一時間以上も探し回り、疲れ果てて家に戻ったとき、何食わぬ顔で床に寝そべっていた...という話を第三者にするとき、等々である。
我々には、人前で涙なんか見せるものではないし、男が泣くなんて一生に一度だけであるという美学が存在しているものだから、人知れず涙を流すテクニックは 大変である。まず、目にゴミが入ったような振りをする。次いで、鼻風邪をひいているように取り繕う。あるいは、欠伸をして誤魔化す…。
それでも今までに4回ほど号泣したことがある。そのうち2回が弔辞を読んだ時だから人前である。2人とも会社関係者だった。1人は4年前にクモ膜化出血で 亡くなった弊社の常務である。今、その息子さんをあずかっている。もう1人は協力業者で、親しい友人でもあった。2人とも50歳そこそこだったので、悲し い悲しい告別式だった。今、思い出しても目頭が熱くなる。1年に1度は人知れずお参りさせていただいている。
あとは、25年くらい前に岡山に営業所があったとき、そこで数々の難問題をクリアして宅地の分譲をしたことがあった。その初日に45区画中35区画以上が 売れた。私は所員全員を帰らせた後、ひとりでその分譲地の端から端まで夕暮れの中を歩いた。もちろんあふれ出る大粒の涙を拭おうともせずに。
残りの1回は、12年ほど前である。この会社を引き継いだ時はボロボロだったが、何とか一人前になり、全国の表彰式が東京で行われた。その会場で、私のこ とをもっとも理解してくれていたメーカーのある人に、「よう頑張りはったな。あんたは、酒は飲めんけど一杯注がしてもらいまっさ」と、肩をたたかれながら 言われた時、私はその会場を飛び出し、近くのトイレに駆け込み、まさに胸が張り裂けるほどに慟哭したのである。
最近、御縁があって、ある美人プロゴルファーとお付き合いをするようになった。近いうちにきっと来るであろう彼女の優勝の瞬間が、実は今一番気がかりである。