或る二世経営者のホームページ ~香山廣紀 かく挑み、かく歩む。~

香山草紙 エッセイ集


  102.新しき旅立ち

28年前、私は父に「勝ち戦の時は誰が経営してもよいが、負け戦になれば、私かあなたがするしかないでしょう。私が行きます」と言って、当時の八幡ナショナル株式会社(現株式会社パナホーム兵庫)に副社長として赴任した。
最初の5年間は若さと情熱で乗り切り、一応企業としての形をつくることができた。しかしながらあちらこちらが綻び始め、それは小さな見せかけだけの成功で あることに気がついた。その頃から、「人間とは? 組織とは? 集団とは?」と言う命題に、正面から取り組むようになった。企業にとって最も大切なものが、「理念」であり「哲学」であり「ミッション」であることを悟っ た。それがわかると、当時受けた研修や読んだ本も、海綿が水を吸うように頭と心に入っていった。しかし、企業経営の難しさは、いくら自分自身が理解して も、それを従業員が共有し、実践の場に活かされないと、何の価値もないことである。いわゆる「知行合一」である。
私は生来の怠け者で遊び好きだし、徳もなければ先見力にも乏しく、経営者には向かないタイプの人間である。マキャベリの言葉である「君子は全ての善徳を兼 ね備える必要はない、ただ兼ね備えているように見せる必要がある」が、私の支えだった。だから、私は「名俳優」を目指して、精一杯演技をしてきた。いずれ 本物になると信じて…。私のような凡人でもここまでくらいは来られたのだから、次を担う人たちも、夢と勇気と少しの愛を持って、経営を執り行ってほしいと 願うばかりである。
2012年3月31日をもって、私はパナホーム兵庫グループの経営から身を退いた。思えば、この28年間に展開してきた施策で、うまくいったといえるもの は、ほんの2~3割である。志半ばで亡くなった人(足立常務)もいれば、日を追うごとに価値観がずれて去っていった仲間も数多くいる。私は従業員に恵まれ たが、一方、良きにつけ悪しきにつけ、従業員の人生に多大な影響を及ぼした。いくらお詫びしてもしきれないと思う。
今月、私は「歩き遍路」に出る。それが終わると、少し世界を見てこようと思っている。その旅は「二百三高地」から始まり、ブータンにも立ち寄り、ここ 4~5年の愛読書である「ローマ人の物語」の世界をゆっくり訪ねるつもりだ。NPO法人(二・三世経営者のための経営塾)も設立し、WFP(国連世界食糧 計画)にも積極的に参加していく。
宇宙からいただいた命の続く限り、私は究極の「空」を求めて、また彷徨うであろう。